大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和45年(む)77号 決定 1970年2月20日

被疑者 今西こと石田政治

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する私文書偽造、同行使、詐欺被疑事件につき、名古屋地方裁判所裁判官太田雅利が、昭和四五年二月十八日なした勾留の裁判のうち、勾留場所の指定に対し、名古屋地方検察庁検察官村山弘義から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判中、勾留場所を名古屋拘置所とした部分を取消す。

被疑者に対する勾留場所を愛知県中警察署と指定する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨は、「原裁判中勾留場所を名古屋拘置所とした部分を取消し、被疑者の拘置場所を愛知県中警察署とする。」との裁判を求め、その理由は別紙理由書(略)記載のとおりである。

二、よつて按ずるに、一件記録によると、被疑者に対する頭書被疑事件について、昭和四五年二月一八日名古屋地方検察庁検察官から勾留場所を愛知県中警察署と指定されたい旨請求して名古屋地方裁判所に勾留の請求がなされ、同日同裁判所裁判官太田雅利により勾留場所を名古屋拘置所として勾留の裁判がなされたことを認めることができる。

三、ところで、被疑者を勾留する場合の勾留場所は、監獄法第一条の趣旨から見て捜査上多少の不便は免れないとしても、原則として拘置監たる監獄とすべきであつて、代用監獄たる警察署の留置場とするのは捜査の必要上特段の事由がある場合に限ると解すべきであるが、一件記録によると、(一)被疑者は当初から別紙理由書(略)二の(一)記載のとおり本件私文書偽造行為および詐欺行為を否認しており、今後の捜査においては右金成甚五郎らと対質をさせてみる必要あること、(二)また、本件の勾留事実は名古屋市内における一件の詐欺に関連する私文書偽造であるが、本件の背後には数千冊に上る本件「社会福祉大鑑」の印刷発行や領収書の印刷発行の事実があり右勾留事実はその中の一つの事実であることが窺われるから、本件の捜査の過程においては当然それらの事実も取調べなければならず、そのためには多数の証拠物を被疑者に示したり関係人に面通しさせたり、さらに被疑者に印刷依頼先へ同行させたりする必要があることを認めることができるところ、以上(一)の金成甚五郎らと対質については、名古屋拘置所保安課長からの電話聴取によると同拘置所の取調室には一般人の入室は管理上認められていないとのことであるので、同拘置所ではその対質ができず、従つて、検察官は右対質のためその都度被疑者を検察庁に呼出すなりしなければならず捜査上多大の不便を来すこと、また前記(二)の捜査に当つても、関係人との面通しについては右に述べたような不便を生じ、その他の取調べについても、取調べ時間につき時間的制約をともなう点で多大の不便を生ずることが窺われ、かえつて迅速な捜査の進行が妨げられるおそれあるというべきである。そして、本件の場合検察官の請求する代用監獄たる愛知県中警察署の留置場に被疑者を拘置したとしても、特段被疑者に不利益な取扱いがなされるおそれがないと思われるところ、以上の諸点を総合して考えてみて、本件の場合、勾留場所を代用監獄たる愛知県中警察署の留置場とすべき特段の事由があるというべきであり、従つて本件においてはその勾留場所を同警察署と指定するが妥当であると思料されるから、結局原裁判中勾留場所を名古屋拘置所とした分は相当性を欠いているものというべきである。

四、よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項、第四二九条を適用して主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例